本を読む女

仕事場への道すがら、歩きながら本を読んでいる女性を見かける。私は日比谷公園を通るのだが、その女性も私と同じコースを歩いている。日比谷公園を出て、交番の前の横断歩道を渡り、同じビルの中に入るまで、常に本を読みながらて歩いているのだ。
横断歩道を渡るときも、人や車に視線を動かすことなく、活字を追い続けている。
この女性は、通用口でIDカードを提示し、エレベーターに乗り、そしてロッカーに到着するまで本から目が離れないに違いない。

好奇心に駆られた私はある日、横からその女性の顔を覗いてみたこともあるが、視線は文字通り、本に釘付けになっていた。

雨の日にこの女性を見かけたが、右手に傘、左手に本を持っているのを発見したときは、「この人は本当に本が好きなんだな」と大いに感心して(半ば呆れて)しまったのだ。

昔、伊丹十三さんが書いた「女たちよ」というエッセイにて、伊丹さんは若かりしころ、自転車に乗りながら本を読んだというのを見て、驚いたことがある。伊丹さんは相当バランス感覚が発達していたのだろう。

私は、残念ながら本の虫ではない。読書は好きなのだが、スピードが出ないので、流れに乗れないまま、中途半端に終わったり、途中で挫折したりすることも少なくない。
だからここまで読書が好きな人たちを少し羨ましく思ったりするのである。

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