クラシック音楽を好きな人はベルリオーズの「幻想交響曲」に対してどんなイメージを持っているのだろうか。
オーケストラの機能をフルに活かした、華麗でダイナミック、ロマン派の代表的作品というイメージではないだろうか。
この曲には「ある芸術家の生涯の出来事、5部の幻想的交響曲」という副題がついており、作曲者の感情、ドラマが描写されている。ロマン派の作品らしく、作曲者の心の起伏が余すところ無く描かれた作品だ。
「幻想交響曲」はオーケストラを自由に駆使している。第2楽章の甘美なワルツ、第5楽章の管楽器を鳴らし切った圧倒的なフィナーレなんかを聴いていると、オーケストラの魅力、特にフォルティッシモの魅力が大迫力で伝わってくる。
そんなことから「幻想交響曲」はドボルザークの「新世界より」、チャイコフスキーの「悲愴」等と同じ頃に作られた作品と言うイメージを、クラシック音楽に親しみ始めた中高生の頃から持ち続けていた。
ところがある時、「幻想交響曲」が1830年に作曲された作品であることを知った。即ちベルリオーズさんは19世紀前半に活躍した作曲家だったのだ。
19世紀前半にあんな音楽を作るなんて、ベルリオーズって凄すぎないか?
比較の為に他の著名オーケストラ曲の書かれた時期を調べてみた。
モーツァルト 交響曲第40番/1788年
ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱付き」/1824年
シューベルト 交響曲第9番「ザ・グレート」/1825年
ベルリオーズ「幻想交響曲」/1830年
シューマン 交響曲第3番「ライン」/1850年
リスト 交響詩「レ・プレリュード」/1854年
ブラームス 交響曲第1番/1876年
マーラー 交響曲第1番「巨人」/1890年前後
チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」/1893年
ドボルザーク 交響曲第9番「新世界」/1893年
ホルスト組曲「惑星」/1910年代
こう年代順に並べてみると、幻想交響曲はとても斬新なことがよく分かる。幻想交響曲はベートーヴェン「第9」の僅か6年後に作られ、「新世界」や「悲愴」より60年以上も前の作品だ。ベルリオーズが生まれたとき(1803年)、シューベルトはまだ6歳、ハイドン(1732年-1809年)も存命だった。
ちなみに幻想交響曲の書かれた1830年には、メンデルスゾーンが「フィンガルの洞窟」の初稿、ショパンがピアノ協奏曲第一番を完成させている。
ベルリオーズは、正に天才、異端児だったようだ。彼はオーケストラの規模を拡大し、効果的に響かせる方法を生み出した。
ベルリオーズは、「管弦楽法」という大著を残しているが、後世の作曲家達、チャイコフスキー、ヴェルディ、ワーグナー、リヒャルト・シュトラウスなどに大きな影響を与えた。また、「管弦楽法」の最後には、ヴァイオリン120人、チェロ45人、総計465人いう超巨大編成オーケストラ構想が書かれているのだとか。やはり天才の考えることは、常人のレベルを遥かに超えているようだ。芸術の世界は、こうした破天荒な天才たちによって進化していく。
ところで、ベルリオーズというと「幻想交響曲」ばかりが目立っているが、その他の作品も当然素晴らしい。私は「イタリアのハロルド」という、ビオラが大活躍する作品も時々聴いている。心がウキウキするような楽しい曲だ。これもお薦め。