ギターはメロディと伴奏を同時に出せる数少ない独奏楽器の一つ。しかし同じ独奏楽器であるピアノほど大きな音は出ないし、たくさんの音符を自由に操れる訳でもない。
オーケストラの曲を、ピアノに編曲して弾くことはよくあることだ。リストはベートーヴェンの交響曲を全曲ピアノに編曲している。またピアノ協奏曲の場合、レッスンでは、先生がオーケストラパート、生徒がピアノ独奏部分を弾いて練習する。
ピアノとオーケストラは仲の良いお友達なのだ。
しかしギターとピアノ(orオーケストラ)との距離は非常に大きい。
その厳しい現実があるにもかかわらず、ギタリスト達はどんな曲でも弾きたいという強い願望が有るので、とりあえずピアノやオーケストラの曲をギターに編曲してみる。そんな作業をギタリストは何百年も続けているのである。私もギターに編曲できる作品が無いかいつも探している。
世の中には演奏不可能と思える編曲も多い。店先で「おお、この作品が編曲されている」と喜んで買った楽譜が最終小節まで演奏されず、一度開いたきりで書棚の片隅に追いやられるもしばしば。その一方、意外と善戦している編曲も幾つかある。
ところで、今まで編曲されなかった(あるいは私がたまたま編曲譜の存在を知らなかった)が、自分のレパートリーに加えたい名作をあげてみたい。
1.モーツァルトのヴァイオリンソナタ(e-moll)/ピアノ伴奏部を編曲
「ミソシーミーソー、ファミミレミファシー」と始まるこの曲。モーツァルトの透き通った悲しみが溢れている。ピアニスティックな部分も比較的少なく、編曲可能だと思う。編曲可能でもやはりモーツァルトは難敵。音楽的な演奏には充分な練習が必要だろう。
2.フォーレの歌曲/ピアノ伴奏部を編曲
「リディア」とか「マンドリン」とか「月の光」とかなら弾けるでしょう。
3.ラヴェル/クープランの墓(プレリュード、フォルラーヌ、メヌエット、リゴードン)/ギター二重奏
ギタリストの斉藤明子さんが学生だったころ、編曲の課題としてプレリュードをギター二重奏に編曲し、師匠の福田さんと演奏しているのを聴いたことがある。音楽的に全く違和感がなく、素晴らしかった。プレリュードが編曲できるなら、他の曲も充分可能なはず。
4.ラヴェル/古風なメヌエット/ギター二重奏に編曲
これはギター2本なら無理の無い演奏が可能と思うが、何故か編曲譜を見たことがない。でも誰か必ず編曲しているはず。
5.ブラームスの間奏曲(作品117)/ギターソロに編曲
1曲目は問題なくできるだろう。これ以外にもA-durの即興曲も辛うじて編曲可能だ。
6.ベートーヴェンのピアノソナタNo.19、20/ギターソロに編曲
ベートーヴェンのソナタ全体を編曲するとしたらこの2曲しかないだろう。ソナタというよりソナチネと言うべきこの2曲からはベートーヴェンの優しい一面が感じられる。
20番(G-dur)なら無理のない編曲ができると思っていたが、既に楽譜が世に出ていた。これは雑誌の付録として掲載されていたのだ。しかし楽譜を見てびっくり。第2楽章がG-durでなくA-durになっていた。第1楽章は原曲通りにG-durで編曲されていたのに何故?? G-durでの編曲は技術的に難しいとは思えない。
ソナタや組曲では、各楽章の調性的な結びつきは非常に強いので、移調するにしても全曲同時に上げたり下げたりしなくてはならない。例えばバッハの無伴奏チェロを編曲するとき、曲によって調性を変えることはまずあり得ないし、今までそんな編曲や演奏は、見たことも聴いたこともない。この編曲者の音楽家としての見識が疑われる。
7.ベートーヴェンのバガテル/ギターソロに編曲
個人的にグールドの演奏で親しんだバガテル達。ギターでも弾けそうな曲が幾つかある。
ところでギターの為の編曲というと誰もが思い出すのは、山下和仁さんの「展覧会の絵」。これが世に出たときは、誰もが卒倒するほどビックリしたものだ。\(゚o゚)/
左指が拡張で壊れそうな「プロムナード」、ハイポジでオクターブのまま5度跳躍する「リモージュの市場」、小指でトレモロしながら親指が和音を引き下ろす「死者とともに死者の言葉」。普通の人間が弾く音符とは思えない。。。。。。。(しばし絶句)
ちなみにギターに編曲するにあたり、全曲を半音ずつ下げて、各曲の関連性は維持されている。
まだまだ編曲したい作品があるけど、今日はここまで。